なぜ緊縮が殺すのか

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デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか?

Amzon

日本の政策、行政に関わる方すべてに是非読んでいただきたい一冊です。

邦題は「経済政策で人は死ぬか?」という遠慮気味なタイトルになっていますが、原題のサブタイトルは「WHY AUSTERITY KILLS」

なぜ緊縮はが殺すのか

となっています。

その名のとおり、緊縮政策が公衆衛生に与える悪影響をデータをもとに徹底的に明らかにした本です。

■概要

 不況時に緊縮政策をとると自殺率の増加、うつ病の増加、伝染病の蔓延、アルコール関連の死亡率増加などが引き起こされる。

 緊縮政策では財政再建できず、むしろ財政は悪化する。

 福祉に投資することで経済成長と健康の増進が両立できる。

著者は、不況そのものは健康・幸福に悪影響をあたえるとは限らず、むしろ重要なのは不況の時に取られた政策であるといいます。

特に、不況時に緊縮政策をとると破滅的な状況を生み出すことになると指摘しています。

緊縮政策の代価は人命である。そのあとでめでたく株価が元に戻ろうとも、失われた命は二度と戻らない。
デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか

反対に、不況であっても政府が適切な政策を講じれば、国民の健康や幸福に与える影響を小さくできると言います。

不況時の政策による影響を分析するため、本書ではいくつもの事例を取り上げています。

■事例
・ニューディール政策の効果

・ニューディル政策に積極的だった州では、ニューディールに1人当たり100ドル支出するごとに
 ・肺炎による死亡率が10万人あたり1.8人減少
 ・乳児死亡率が1000人あたり18人減少
 ・自殺率が10万人あたり4人減少

・ソ連崩壊後の死亡率急上昇

・ソ連崩壊後のロシアで男性の人口が数百万人減少
・要因は飲酒量増加による死亡率上昇
・IMFは急激に民営化シを進めるショック療法を要求
・ショック療法をとった国は
 ・男性の自殺者が10万人当たり5人増加
 ・心臓疾患による死者が10万人あたり21人増加
 ・アルコール関連の死亡者が10万人あたり41人増加
 ・民営化断行によりロシアの一人当たりGDPは16%減、平均寿命2.4年短縮
・現在も男性の平均寿命は91年のレベルに戻っていない

1990年代末以降になると、当初ショック療法解いていた人々の中からも間違いを認める声が出てきた。ミルトン・フリードマンもその1人で、こう述べた。「ソ連の崩壊直後にロシア人はどうするべきかと何度も聞かれ、その度に「民営化あるのみ」と答えたが、あれは間違いだった。スティグリッツの方が正しかった」
デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか

・アジア通貨危機でHIVが蔓延

・アジア通貨危機後、IMFは融資と引き換えに緊縮財政を要求
・タイではIMFの要求によりHIV対策予算が削減。感染症による死亡率が倍増
・インドネシアで乳児死亡率が14%上昇
・インドネシアではIMFの政策によりGDPが13%縮小。後にIMFが謝罪
・韓国男性の自殺率が45%上昇。タイでは60%上昇
・IMFの融資を拒否したマレーシアでは対ドルの為替レートを固定。70億リンギットの財政出動を実施
・緊縮をしたインドネシアは危機後2年で貧困率が70%増加。マレーシアでは16%増加にとどまった

ジョセフ・スティグリッツは2000年にこう述べている。「IMFが何をしたかといえば、要するに東アジアの不況をより深刻で、長く、厳しいものにしただけである。現に、IMの処方箋に最も忠実だったタイは、独自路線をとったマレーシアや韓国よりも悪い状況に陥った」
デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか

・アイスランドの危機克服

 ・サブプライム危機後、国民投票で緊縮を拒否したアイスランドでは自殺率、疾病による死亡率の増加は見られなかった。

・ギリシャの危機拡大

 ・IMFの緊縮策をそのまま実施
・2007年から2009年にかけて自殺率が24%上昇
・40年ぶりにマラリアが発生
・HIV新規感染者が2倍に増加
・IMFの緊縮策の結果、政府債務の対GDP比は143%から160%に増加
・2012年にIMFが政府支出乗数が1以上である(=緊縮で財政が悪化する)と認める。
・IMFチーフエコノミストが「緊縮政策が雇用と経済に与える悪影響を過小評価していた」と認める。

・ALMP(積極的労働市場政策)

・北欧などで行われている職業訓練と再就職活動のサポートプログラム
・失業者を速やかに職場に戻すことで福祉依存度と自殺率を下げることができる
・ALMPに国民一人当たり190ドル以上投資した国(スウェーデン、フィンランド等)では失業率と自殺率の相関がゼロになる。

・サブプライム危機で感染症が蔓延

・2007年のカルフォルニアでウェストナイルウィルスが流行
・原因は蚊の大量発生で、蚊は債務不履行で差し押さえられた住宅のプールから発生していた
・住宅を差し押さえられたホームレスが急増

■結論

1.有害な方法は決してとらない

ヒポクラテスの誓い:害があるとわかっている治療法は決して選択しない」
医療品の審査はあれだけ厳しいのに、なぜ経済政策の人体への影響は審査しないのだろうか。同等の厳しい検査があってしかるべきではないだろうか。(中略)配慮の足りない緊縮政策を断行することは、危険な薬の臨床試験を堂々と行うようなものであり、そんなことを続ければただ意味もなく死者が増えるばかりである。
デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか

2.人々を職場に戻す

不況下においては、失業、あるいは失業への不安が健康を悪化させる強力なトリガーとなる。
不況下においてもできるかぎり失業者を職場に戻す努力をしなければならない。
デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか

3.公共衛生に投資する

(政府は国民を)失業や貧困から守り、支払い能力ではなくニーズに基づく医療を提供する。しかもそのほうが国にとっても節約になる。
感染症等の疾病対策あ重要極まりないものであり、これを怠ると甚大な被害につながりかねない。そうした対策には膨大な調査と迅速な対応が求められ、そのためには公共部門がしっかりとかかわっていなくてはならい。
デヴィッド・スタックラー, サンジェイ・バス 経済政策で人は死ぬか

緊縮政策は経済も人も破壊します。

緊縮政策は国民への明らかな敵対行為です。

緊縮、ダメ!絶対!

Amzon

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