まずはこれらの発言に目を通してください。
お知らせがあります。私たちはみんな、この国を第一に考えているのですよ。
バラク・オバマ指名受諾演説・全文(4) コラム「大手町から見る米大統領選」番外
「カナダ・メキシコとNAFTAに関する再交渉を行い、労働者に関するより積極的な保護を目指す」
「交渉の帰結いかんではNAFTAからの脱退もありえる」
JIIAフォーラム講演 シャーマン・カッツ ピーターソン「アメリカ次期政権の通商政策を占う」
「インディアナ州のある男性の場合。20年も使い慣れてきた機材が梱包され、中国に送られていくのをなすすべもなく見ていた彼は、家族に失業したと伝えなくてはならず、どうしようもなく情けない思いをした。その体験を私たちに語るとき、声をつまらせて言葉を失った。働く人がそんな思いをしなくてはならない、そんな国でいいわけがない。」
バラク・オバマ指名受諾演説・全文(1) コラム「大手町から見る米大統領選」番外
「私たちは今そういう決定的な節目にさしかかっています。この国は戦時下にあり、経済は混乱し、アメリカの約束がいま再び損なわれようとしています。
今日この夜、前よりも多くのアメリカ人が職を失い、前よりも多くの人が前よりも少ない賃金のため前よりもたくさん働いています。」
バラク・オバマ指名受諾演説・全文(1) コラム「大手町から見る米大統領選」番外
「市場はやる気と変革と成長を作り出すべきだが、企業はアメリカに雇用を生み出し、アメリカの労働者を守り、ルールに従うという責任にもとづいて行動しなくてはならない。それがアメリカの約束です。」
バラク・オバマ指名受諾演説・全文(3) コラム「大手町から見る米大統領選」番外
「われわれは、雇用創出に集中しなくてはならない。そのため、雇用を海外に流出させる企業には課税を強化し、雇用機会を国内に作り出す企業には減税・免税する。また国民の95%に相当する中産世帯に減税措置を実施する」
オバマvsマケイン第2回討論会 経済は、エネルギーは、世界の平和は コラム「大手町から見る米大統領選」番外
「国民を守り、全ての子供にまともな教育を与えるべきだ。水の清潔と安全を確保し、子供のおもちゃの安全性も確保すべきだ。新しい学校や新しい道路、科学と技術に投資すべきだ。それがアメリカの約束です。」
バラク・オバマ指名受諾演説・全文(3) コラム「大手町から見る米大統領選」番外
以上はオバマ前大統領の大統領選挙中の発言です。
もう一度言いますよ?
以上はオバマ前大統領の大統領選挙中の発言です。
これらがトランプ大統領の発言だと言っても、違和感を感じる人は少ないのではないでしょうか。
特に経済分野において、トランプ大統領と初期のオバマ前大統領の政策はよく似ています。
オバマはトランプのTPP離脱について「間違った処方箋だ」と批判していますが、自身の選挙期間中(2008年)は「NAFTA(北米自由貿易協定)は間違いだった」と述べていたのです。
「カナダ・メキシコとNAFTAに関する再交渉を行い、労働者に関するより積極的な保護を目指す」
「交渉の帰結いかんではNAFTAからの脱退もありえる」
JIIAフォーラム講演 シャーマン・カッツ ピーターソン「アメリカ次期政権の通商政策を占う」
また、トランプは”ラストベルト”と呼ばれる衰退した(錆び付いた)工業地帯の労働者から支持されているとされますが、オバマの支持基盤も製造業でした。
リーマンショックのとき米国最大手の自動車メーカであるGMが破綻した際、公的資金を注入して救済したのはそういった支持基盤があったためと言われています。
- 製造業の復活
- 中間層の再興
- インフラの更新・拡充
これらはをひとまとめにすると
衰退したアメリカの復活
これがオバマ、トランプに共通したテーマです。
リーマンショック以降のアメリカでは保守、リベラルに関わらす”衰退したアメリカの復活”が最大の問題意識として共有されているのではないでしょうか。
しかし、2017年現在、トランプ新大統領がしていることは、オバマがやってきたことをすべてひっくり返しているように見えます。
これは、オバマが大統領就任後に変節したことによります。
2008年の選挙期間中、オバマは「NAFTAは間違いだった」と繰り返し発言しています。(youtubeに動画が残っているので探してみてください)
しかし、オバマは大統領就任後もNAFTA再交渉は行わず、人気後半ではTPPを積極的に推進してきました。
TPPは、民主党は反対、共和党内にも反対はは少なくなく、オバマの最大の支持基盤である自動車労組は大反対と、アメリカ国内では”人気のない政策”でした。
にもかかわらずオバマはなぜTPPを推進するようになったのでしょうか。
中野剛志氏の記事にそのヒントがあります。
東洋経済オンライン 中野剛志 米国は建国以来ずっと「米国第一」主義だった
中野氏は「米国は建国以来ずっと米国第一主義だった」と指摘。
ただしアメリカには”2つの米国第一”主義があると言います。
米国第一A:製造業と労働者階級にとっての「米国第一」
米国第一B:金融部門と富裕層にとっての「米国第一」
そしてこの”米国第一A”と”米国第一B”は互いに反発する性質ものだと言います。
たとえば、米国がそのグローバルな金融力を維持・強化するのであれば、必要になるのはドル安ではなくドル高であろう。また、インフレは資産価値を実質的に下落させる方向に働くことから、金融部門や富裕層にとってはディスインフレのほうが望ましい。自由貿易や移民の流入も、インフレを抑止する圧力となるので推進すべきだ。中国との摩擦は、中国での投資ビジネスに悪影響を及ぼすので迷惑である。
このように、金融部門からみた「米国第一」は、製造業と労働者のための「米国第一A」にことごとく反するのである。
東洋経済オンライン 中野剛志 米国は建国以来ずっと「米国第一」主義だった
オバマ大統領は明らかに”米国第一A”を訴えて当選した大統領です。
しかし当選後は徐々に”米国第一B”へと傾いていってしまいました。
なぜ「米国第一」はAとBとの間を揺らぐのだろうか。
それについては拙著『富国と強兵:地政経済学序説』で理論的に解明したので、ここでは要点だけ説明しよう。
まず、グローバリゼーションと金融に偏重する「米国第一B」は、金融危機を引き起こし、製造業の衰退と格差の拡大を招く。その結果、米国の相対的なパワーは弱体化し、安全保障の「米国第一B」も維持できなくなる。
そこで「米国第一A」への転換が必要となる。しかし、製造業の復活は容易ではなく、長期間を要する。しかも「米国第一B」の下で、金融の権益が政治の中枢を支配する構造(J・バグワティの言う「ウォール街・財務省複合体」)が形成されてしまったため、金融部門に不利益となる「米国第一A」への転換は困難を極めることとなる。
東洋経済オンライン 中野剛志 米国は建国以来ずっと「米国第一」主義だった
アメリカは、上記のような”米国第一A”と”米国第一B”の間の矛盾を抱えており、その矛盾はトランプ大統領にもみられます。
トランプの発言を理解するためにはこの矛盾を理解しておくことが重要となります。
現在吹き荒れているトランプ現象は、トランプ個人の資質によるものだけではありません。
このことは先日紹介した柴山桂太氏の記事でも指摘されています。
たとえ、トランプ政権が倒れても次の大統領もトランプ路線を引き継ぐでしょう。トランプ大統領は失敗するかもしれませんが、これから米国で本格的に始まる「保護主義」の前座であって、次の大統領がグローバリズムに戻ると安易に考えない方がいい。「米国第一主義」の路線を引き継ぐ人物が出てくるはずです。
日刊ゲンダイ 本格化する保護主義への流れ 柴山桂太氏「トランプは前座」
(参考)静かなる大恐慌-行き過ぎたグローバル化が保護主義を生んだ-
日本は米国の矛盾を理解した上でうまく付き合っていく必要が有ります。
そのためには独立国としての意思と戦略が必要です。
最後は中野氏の警句で締めたいと思います。
そして今、この「米国第一」の深刻な矛盾を抱えたまま、しかもその矛盾に気づかぬまま、トランプ政権が船出する。米国はさらに迷走し、次第に沈んでいくだろう。そして、もし日本が米国に追従するだけならば、トランプにさんざん翻弄された揚げ句、米国とともに沈んでいくこととなるだろう。
東洋経済オンライン 中野剛志 米国は建国以来ずっと「米国第一」主義だった
それでは今日はこの辺で