「脱民営化」という素敵なタイトルの記事を見つけたので紹介します。
イギリスといえば民営化、民営化といえばイギリス・サッチャー政権
そんなイギリスの記者、コリン・ジョイス氏の記事です。
民営化の理屈は、道理にかなっているようにみえる。競争と利益追求によって、企業はイノベーションと顧客サービスの改善を図り、できるかぎり価格を引き下げようとする。巨大な国営企業の独占体制ではそのような力が働かず、強気の実業家よりも「官僚的な」管理職が中心になる。
だが30年たって、理論どおりにうまくいってきたかどうかは疑問視されている。その点、政府が以前よりもある意味、市場に介入するようになってきたのが興味深い。これは「再国有化」とは違う。むしろ、自由市場がうまく機能していなそうな領域に、政府が時おり踏み込んでいる、というケースだ。
コリン・ジョイス イギリスで進む「脱」民営化 Newsweek
ジョイス氏によれば、イギリスの民間サービスは何かにつけてぼったくろうとしてくるため、常に用心していなければならず、使い勝手が悪い。
民間がそんなことをいている間に”公営サービスの方が安い”ということが少なからず出てきているといいます。
例えばロンドン交通局(TFL)には以下の利点があるといいます。
- 旅客への情報提供。電車の到着時刻(と遅延)を知らせる駅の掲示板システムで先端をいっている。
- 運賃支払いシステム。ロンドンのあらゆる交通機関で使える「オイスターカード」は最も安い経路で精算してくれる。
- 顧客サービス。何らかのトラブルが発生した際に、TFLの駅係員は、その場で払い戻しをする権限を持っている。私鉄の場合は、書類を記入し、証拠を提出し、返事を数週間待つことになる。
- 投資。ロンドンの人口は大幅に増加しており、旅行者も増えている。新しい路線が作られ、環境に優しいバスや、テムズ川を渡るケーブルカーまで12年に開設した。
公営のロンドン交通局の方が民間よりも最先端かつ柔軟なサービスを提供できているというのです。
そして、注目すべきは”投資”です。ロンドン交通局は積極的に投資を行っているようです。
国営、公営といえば”保守的”というイメージを持たれがちです。
しかし、実際は公営の方が大きなリスクを取りやすいものです。
一民間企業が抱えられるリスクはそれほど大きくはありません。
事業の失敗や経済危機などの外的ショックによって、民間企業は簡単に潰れてしまします。
なので一部のベンチャーを除き、民間企業はそうならないよう、多額の投資には慎重にならざるを得ません。
国鉄が民営化されてJRとなりました。
JRは民営化の成功事例として都エリあげられることが多いです。
確かにサービスもいいし、利益も出ていますよね。
しかし、全国の新幹線網の整備はなかなか進みません。リニア新幹線も、大阪まで開通するのは2045年だそうです。随分先ですね。
開通を8年前倒しするというが財界から上がっていますが、JRは「不可能だ」と言っていました。
ちなみに国鉄時代、東海道新幹線の東京−大阪間はたった5年で開通しました。
なぜリニアはあと18年(!!)もかかるのかというと、トンネルの多さや都市部の用地買収の難しさもあるのですが、一番のボトルネックは”お金”だそうです。
リニアの総工費は約9兆円です。もちろんJRにそんなキャッシュはありませんし、9兆円を一気に借り入れれば利払いで経営を圧迫してしまいます。
なのでJRは東海道新幹線等でリニアの工費を稼ぎつつ、経営を圧迫しないペースで借り入れを行いながら工事を進めていかなければいけません。
つまり、日本最大級の次世代インフラプロジェクトが一民間企業の経営体力に依存してしまっているのです。
なんか残念な話ですよね。こんなんでいいのでしょうか。
よくないよね、といわけで当初は拒否していた、財政投融資により低金利で資金を借り入れ、8年前倒しを目指すという方向に向かうようです。
つまり、国からの資金とプレッシャーをうけてようやく8年前倒しを”目指す”ことになったのです。
これは、ジョイス氏が言っていた
その点、政府が以前よりもある意味、市場に介入するようになってきたのが興味深い。これは「再国有化」とは違う。むしろ、自由市場がうまく機能していなそうな領域に、政府が時おり踏み込んでいる、というケースだ。
コリン・ジョイス イギリスで進む「脱」民営化 Newsweek
の一例だと思います。
リニアは作れば確実に経済効果が見込める鉄板プロジェクトです。
JRにとっても作れば確実に儲かるプロジェクトです。
それでも一民間企業であるJRは、何があっても(例えばリーマンショックや大震災が起きても)絶対に債務超過にならないよう、慎重に事業を進めて行かざるを得ないわけです。
やはり国の関与は必要だと思います。むしろ、こんな国家プロジェクトを民間企業に任せきりにするのは無責任でしょう。
私も、何でもかんでも国営にすればいいとは思いません。JRも素晴らしい企業だと思います。
しかし、何でもかんでも民間にお任せでいいとも、やはり思いません。
市場原理にそぐわないものもあれば、利益が出しにくく、民間ではやりにくい事業もあります。
80年代のサッチャー、レーガン政権以降の”民営化=善”という偏った価値観を、もう少し中立に戻していくことを考えてもいい時期なんじゃないでしょうか。
僕は民営化に対して賛成、反対の確固たる自説があるわけではない。でも僕(自由市場でいろいろな情報を手にしている一消費者だ)の最近の行動を見てみれば、おのずと見えてくる。僕が「消費行動という投票」によって、民営化に反対票を突きつけているということが。
コリン・ジョイス イギリスで進む「脱」民営化 Newsweek
それでは今日はこのへんで