この前の土曜に竹村公太郎さんの講演を聞いてきました。
竹村さんはベスロセラーとなった「日本史の謎は地形で解ける」の著者です。
もともとは建設省(今の国土交通省)の官僚であり、高度経済成長時代に3つのダムを作った日本を代表する土木技術者です。
その竹村氏が2016年に出版されたのが
「水力発電が日本を救う」です。
題名:水力発電が日本を救う―今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる
著者:竹村公太郎
出版社: 東洋経済新報社
先日の講演では文明とエネルギーをめぐる歴史とダムによる水力エネルギーの活用という話を聞くことができました。
概要は以下のとおりです。

広重の「東海道五十三次」松がまばらにしか生えていない。(松を切るのは重罪だった)
- 文明の維持、発展にはエネルギーが不可欠
- 産業革命以前のエネルギーはほぼ木(薪)
- 日本文明の中心がが奈良から京、江戸に移ったのは木を採り尽くすてしまったためだった
- 江戸時代末期は日本中の山が禿山だった
- 黒船が蒸気機関を連れてきた。日本には手付かずの石炭が豊富にあった
- 先の大戦は「石油に始まり、石油に終わった」
- 石油文明は持続可能ではない
- これからはの時代は国産の水力発電をエネルギーの柱にすべき
- 既存のダムの運用改善や嵩上げにより年間2兆円に相当する電力を生み出せる
日本の歴史とエネルギーの関係は「日本史の謎は地形で解ける」に詳しく書かれていますので是非ご覧ください。
さて、ダムの話です。
竹村さんが提案する水力発電強化プランとは
- 全てのダムに発電機を
- 運用を変えるだけで発電量UP
- 既存ダムの嵩上げで発電量が倍増
どうですか?わくわくしてきますよね。
一つずつ説明していきます。
1.全てのダムに発電機を
えっ、発電機がついないダムがあるの?
あるらしいです。砂防ダムは農業用ダムには発電機が付いていないダムが多くあるそうです。
当然、なんでつけておかないんだという話になりますが、色々とややこしい事情があったようです。
まず、ダムに発電機をつけ、実際に発電ダムとして運用するには電力会社の協力が不可欠です。
事業に電力会社を巻き込む必要があるわけですが、そうなると電力会社にもダム建設の費用をいくらか負担してもらわないといけません。
しかし電力会社からすれば、小規模な砂防ダムで水力発電をやっても採算が見込めません。
そのため、電力会社を巻き込もうとすると話がまとまらず、プロジェクト全体の進行が滞ってしまうので、建設省が自分たちだけで発電機のないダムを作ったという経緯なんだそうです。
なんだかなぁという感じですが、当時治水は喫緊の課題であったため、建設省がそういう判断をしたのも仕方がないのかもしれません。
現在は、ダムはもう出来ています。発電機を後付けするだけなら費用はそうはかからないと言います。(ダム建設費用の大部分は用地買収やその地域の住民への補償)
ダムがある地方自治体が水力発電会社を起こして、発電で得た利益を地元に還元するというてもあります。
2.運用を変えるだけで発電量UP
そんなうまい話が、、、あるんです。
竹村さんいわく
「今のダムには水が半分しか溜まっていない」
のだそうです。
なぜそんな事になっているのか。
そのワケは「多目的ダム法」にあります。
この法律は昭和32年(1957年)に制定されたもので、現在もこの法律に則ってダムは運用されています。
この法律により台風や大雨の時でもダムが溢れないよう水位が制限されているのですが、いかんせん60年前の法律ですから、必ずしも実態に合っているとは言えない部分があるんだそうです。
60年前は天気予報の技術が未熟だったため、台風や雨雲の進路を予測できませんでいた。
「 台風 は いつ どこ に 来る か わから ない。 もし 台風 が 来 たら 暴風 により 送電線 が 切れる かも しれ ない。 ラジオ も 聞こえ なく なる かも しれ ない。 ダム に 至る 道路 も 崖 崩れ で 使え なく なっ て いる かも しれ ない」
今 から 半 世紀 も 昔 の 日本 では、 この 様 な リスク を 考え て、 それ に 対応 する ダム の 運用 手法 を 設定 し て いっ た。
竹村 公太郎. 水力発電が日本を救う―今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる (Kindle の位置No.267-271). 東洋経済新報社. Kindle 版.
今は技術の発達により、台風の進路はかなり正確にわかるようになりました。
それを踏まえて運用を変えれば今よりもダムの水位を上げることが出来、発電量を上げることができるというワケです。
3.既存ダムの嵩上げで発電量が倍増
そして水力発電増強の切り札がコレ。ダムの嵩上げです。
嵩上げは、その名のとおり既存のダムの壁を継ぎ足してダムを高くすることで貯水量を増やすという手法です。
(参考)JDECダム技術センター
ダムは山と山とのあいだの谷に水を貯めています。そのため水位が上がれば上がるほど水面の面積がラッパ状に大きくなっていきます。
ダムの水位を少し上げるだけで貯水量は飛躍的に上がります。
また、水力発電は水の位置エネルギーを電力に変換するものですから嵩上げされた、高い水位にある水はより多くの電気エネルギーになります。
実際 の 嵩上げ の 例 として、 北海道 の 夕張 シューパロダム が ある。
この ダム は 元々 ダム の 高 さが 六 七・五 m だっ た。 それ を 四三・一 m 嵩上げ し て、 高 さを 一一 〇・六 m に する 工事 を 進め た。 これ によって 貯水 容量 は、 八 七 〇 〇 万 から 四 億 二 七 〇 〇 万 に 増え た。
つまり、 ダム の 高 さを 約 一・五 倍 に する こと で、 貯め られる 水 が、 なんと 五 倍 近く にまで 増え た ので ある。
竹村 公太郎. 水力発電が日本を救う―今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる (Kindle の位置No.873-878). 東洋経済新報社. Kindle 版.
上記の例はダムの高さを1.5倍にする大改修ですが、ダムの高さを一割嵩上げするだけで発電量が2倍になるケースもあるそうです。
この案も既存のダムの改修ですから、用地買収やその地域の住民への補償はすでに終わっています。住民への負担を最小限に抑えながら、安価に発電量を増やすことができるのです。
■なぜ水力発電なのか
日本は水エネルギーの宝庫
日本列島には脊梁山脈が走っています。日本の国土の7割は山です。
また、日本は雨が多いですよね。同じ緯度にある他の国々と比べても、日本は雨量が多いです。
山と雨、これが水力発電に必要な地理的条件です。
そして、日本にはそれがうんざりするほどあります。
太陽の熱により海水が蒸発して雲となり、山にぶつかった雲が大量の雨を降らせます。
日本列島は太陽エネルギーを水の位置エネルギーに変換する巨大な永久機関なのです。
日本人は古来から、この水の位置エネルギーに悩まされてきました。
山から流れ落ちる雨は川を氾濫させさます。日本の歴史は治水の歴史でした。
明治以降、ダムという近代技術を用いて日本人は水を制御しようとしてきました。
河川の氾濫を抑え、飲み水を確保することで人々が貴重な平野部で安心して暮らせるようになりました。
ダムは工業用水や電力を供給し、日本の高度成長を支えてきました。
そのためには犠牲もありました。
ダム建設によりいくつもの村がダムの底に沈みました。
宮ヶ瀬ダムのダム湖には観光船があるらしいのですが、ダムで沈んだ村の住民はその船に乗れないんだそうです。
もちろん乗ることが禁止されているわけじゃありません。
「 今、 ダム から ここ まで 船 に 乗っ た ん です よ」 私 は、 観光 化 が 成功 し た と 感じ て、 地元 の 人 で ある 彼女 からも 喜び の 声 を 聞く こと が できる と 期待 し て い た。
だが、 彼女 は こう 言っ た の だ。
「 そう。 でも、 私 は まだ 船 に 乗っ た こと が ない けど ね」
私 は 驚い た。
ダム 湖 が でき て、 もう 十数 年 が 経つ ので ある。
「 なぜ、 乗ら ない ん です?」
奥さん は 少し 目 を そらし、 小さな 声 で 答え た。
「 だって、 湖 の 下 には、 昔 の 家 が ある から」 私 は 言葉 を 失っ て い た。
竹村 公太郎. 水力発電が日本を救う―今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる (Kindle の位置No.1481-1487). 東洋経済新報社. Kindle 版.
こうした犠牲の上に、いまのダムはあります。
この遺産を次の世代にしっかりと引き継いでいかなくてはならないと竹村氏は言います。
「私たち土木屋の時間の感覚は普通よりも長い。土木屋が将来と言ったらそれは50年、100年後のこと。100年後の世代がいまと同じような暮らしができるよう、いまやっておかなきゃいけない事がある。」
竹村さんの言葉です。
私たちは先人が犠牲を払って築いてくれたインフラの上で生活しています。
私たちにも次の世代のためにこの国をより良くしていく責任があるのだと思います。
しかし、実際はこの20年、公共事業費は削られ続け、インフラは劣化してきています。
デフレ不況という形で次の世代である若者たちにも負担を強いているのが現状です。
「日本はもう成長できない」
ウソです。こんなにも巨大な永久機関を持った国が経済的に発展できないワケがありません。
電話の発明で有名な、地質学者のグラハム・ベルは、120年前の来日時にこう言っています。
「 日本 を 訪れ て 気がつい た のは、 川 が 多く、 水資源 に 恵まれ て いる こと だ。 この 豊富 な 水資源 を 利用 し て、 電気 を エネルギー 源 と し た 経済 発展 が 可能 だろ う。 電気 で 自動車 を 動かす、 蒸気機関 を 電気 で 置き換え、 生産 活動 を 電気 で 行う こと も 可能 かも しれ な日本 は 恵まれ た 環境 を 利用 し て、 将来 さらに 大きな 成長 を 遂げる 可能性 が ある」
竹村 公太郎. 水力発電が日本を救う―今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる (Kindle の位置No.467-470). 東洋経済新報社. Kindle 版.
ベルの予言は外れたのでしょうか?いいえこれからです。これから我々が成し遂げればいいんです。
太陽、海、山、川、そしてダム。必要なものは全て揃っています。
あとは私たちの意思があれば、この日本列島という永久機関は力強く駆動し始めます。
わくわくする話じゃないですか!!
それでは今日はこのへんで
題名:水力発電が日本を救う―今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる
著者:竹村公太郎
出版社: 東洋経済新報社
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